昇華ガスと転写紙の関係性について

昇華ガスと転写紙の関係性についての解説記事です。

昇華転写で発生するガスに関係して起こりうる転写ムラなどのトラブルには複合的な要因があります(インク量やデザインなども絡みます)。この対策の1つとしてガス抜けタイプの転写紙があります。

(株)サンリュウでもガス抜けタイプの速乾性昇華転写紙「Rapido(ラピド)」を販売しています。今回、転写紙Rapidoと他社の4種類のシートタイプ転写紙を使った比較テストを行いました。そのテスト結果も解説に交えつつ、昇華ガスと転写紙の関係性についての解説記事を作成しました。

昇華転写では「ガス」が発生している。

 

昇華転写は、インクを高温で加熱することで色素粒子を固体から気体へと変化させ、素材へ染み込ませる印刷方式です。

つまり転写中は、大量の昇華ガスが発生しています。(下記は、熱プレス機で昇華転写中の模式図です)

昇華ガス発生の模式図(※AI作成の図です。概略を参考にしてください)熱と圧力をかけて転写紙からポリエステル等への転写中に、転写紙から昇華ガスが発生して抜けてゆく。

さらに、印刷時に紙が含んでいる水分や、周囲の湿気も加熱によって蒸発します。

このガスや水蒸気が転写工程でうまく逃げられないと、
● 色ムラ
● 気泡跡
● ぼやけ
● にじみ
● ゴースト
といった品質不良の原因になることがあります。

そこで登場したのが、ガス抜け性能を持った転写紙です。


★ガス抜け転写紙のメリット

1.転写ムラを抑えやすい
ガス抜けタイプの最大のメリットは、転写時に発生するガスや水蒸気を転写紙背面にスムーズに逃がせることです。
ガスが転写紙と素材の間に滞留すると、圧力が均一にかからず、ムラや斑点の原因になります。

ガス抜け性能のある転写紙は、こうしたトラブルを軽減し、より安定した転写品質を実現します。ただし、ロゴのみの印刷や、インク量の少ないデザインでは、通常の高転写率紙でも十分な品質が得られることがあります。
用途によっては、ガス抜け性能の恩恵をあまり感じられない場合もあります。

2.インク量の多いデザインに強い
スポーツウェアやユニフォームなどでは、濃色ベタのデザインを印刷することがあります。
このような高濃度印刷では、発生するガス量も増加します。
A3やA4サイズの昇華転写でも、全面柄や写真デザインでは想像以上に多くのガスが発生します。
ガス抜けタイプは、こうした条件でも安定した転写がしやすく、生産時のロス削減につながります。

では、本当にデメリットはないの?
もちろん、選ぶ際の注意点はあります。
それは、『転写した画像濃度の微調整が必要な場合がある』ということです。
ガスを逃がしやすい構造のため、転写紙や設定によっては、転写濃度が不足する場合があります。

その結果、
● 発色が少し弱く感じる
● 色合わせの調整が必要になる

といったケースもあります。

実際に転写してみて思ったような色が出ないと、困ってしまいますよね。
ですが、(株)サンリュウの販売するガス抜けタイプの昇華転写紙Rapidoなら適度なガスバリヤ性を持たせているので、新規にご採用になったお客様の多くは調整なしに使い続けられているようです。

 

↓こちらは発色比較テストの転写結果です。

 

【発色比較テスト】

1.【転写物そのものの比較】 ※左から、① ② ③ ④ ⑤ の順です
比較テストのデータ

①は弊社の転写紙Rapido (ガス抜けタイプの昇華転写紙)を用いて転写したもので、②~⑤は他社様の転写紙を用いて転写したものです。
※写真の照明の関係上、発色の違いは少し見えにくいかもしれませんが、この下、2.の転写後の「転写紙」を見ていただくと、その差は一目瞭然です。

 

2.【転写後の転写紙の比較】※左から、① ② ③ ④ ⑤ の順です
比較テストのデータ

↑こちらは転写後の転写紙を並べたものです。
他社様の転写紙(②〜⑤)に比べ、①の転写紙Rapidoは残った色が明らかに薄いことがお分かりいただけると思います。
紙に残った色が薄いということは、それだけ多くの色素がしっかりと素材側に移行されたという証拠です。

転写紙Rapidoは、従来の「ガスを逃がしやすい構造=発色が弱くなる」という弱点を完全に克服しました。さらに圧倒的な乾燥の早さも兼ね備えているため、高速生産ラインとの相性も抜群です。

 

3.【布へのガス抜けを比較】※左から、① ② ③ ④ ⑤ の順です
比較テストのデータ

プレス機上部と転写紙の間に布を入れてのテストです。5社の転写紙それぞれからの、布に付着した色素のチェックを行いました。

ガス抜け確認用の布の配置図

ーープレス機上部
ーー布(転写紙からの上側へのガス抜け→固体となった色素が付着する)
ーー転写紙
ーー転写物(色素が転写紙から昇華→転写物に定着する)
ーープレス台

プレス機上部の熱プラテンと転写紙の間に布を入れることで、「転写紙からの上側へのガス抜け」したガスの色素(昇華染料)が布に付着します。上側に多くガス抜けしているほど濃い色になっています。

ガス抜けしない転写紙は「転写紙からの上側へのガス抜け」がないために無色になっています。色素が転写紙の下側の転写物に多く定着している場合は、ガスとともに上に抜ける色素が少なくなるため、布の色は薄くなります。

※この、布への付着テスト単体では「転写物に多く定着しているから」薄いのか、「単にガス抜けが少ないから」薄いのか、判断できません。1.2.3.全部のテスト結果をそれぞれ見ながら比較して検討する必要があります。

 

 

比較テスト結果にあるように、②のA社はガス抜けがみられません。
それ以外の転写紙では、ガスが抜けている様子がわかります。
①の転写紙Rapidoは色素のほとんどが素材へとしっかり定着しています。Rapidoもガスも抜けていますが、量が少ないためガス抜け確認用の布の色は薄いです。

 

◆まとめ
「ガスが抜ける=悪い」ではない!

ガス抜け転写紙について説明すると、
「ガスが抜けるなら、印刷が薄くなってしまうのでは?」という質問をいただくことがあります。

しかし実際には、上記の【発色比較テスト】の結果のように転写紙Rapidoでもガスが抜けていますが、量は少ないため色素のほとんどが素材へとしっかり定着しています。

さらに、ガス抜け転写紙は印刷時のインク速乾性能と、昇華転写時のガスムラ不良が起きにくくなる、という2つの特性を持っています。(※詳しくは下段に記載)

このためガス抜け転写紙を使用することにより、
● 高濃度印刷
● 大判昇華転写
● スポーツウェア
● 高速生産ライン
では、品質向上に大きく貢献する場合があります。

「転写紙がガス抜けをする」と聞くと「ガス抜け」はデメリットのように感じるかもしれません。しかしそういうことではなく、ガス抜け機能はその転写紙基材をポーラス構造にすることで得られる特徴なのです。

この特徴により、ガス抜け転写紙は 1.印刷時のインク速乾性と、2.昇華転写時のガスムラ不良が起きにくくなる、という2つの特性が得られるわけです。

その結果、印刷工程ではインク乾燥が速いことによりピンチローラーのひっかき傷不良、しわ、たわみや波打ち、にじみ等を減らすことに貢献し、昇華転写工程では発生ガスを適切に逃がすことで濃度ムラが無くすことに貢献しています。

 

もちろん、すべての用途でガス抜け転写紙が必要というわけではありませんが、

●「ガスムラ不良を無くすことを重視する」
●「インク乾燥の速さを重視する」

ならば、(株)サンリュウのガス抜けタイプ速乾性昇華転写紙Rapidoをお勧めします。

 

 

考察、追加情報:

1.適度なガス抜けについて

今回のテストでは転写紙Rapidoと、他社のシートタイプ転写紙を使用しました。小型プリンタ用であるシートタイプ転写紙の多くは排出時ピンチローラーでの未乾燥インク汚れを防ぐために、第一に速乾性が重視されます。(速乾性は小型プリンタ用転写紙の必須要件です)

 

速乾性のためにはポーラス構造が重要です。そのために1社の転写紙を除けば全部ガス抜けする転写紙ではありました。ただし、あまりにガス抜けが多すぎると素材への発色が悪く、色が薄くなってしまいます。

 

テストの結果から、転写紙Rapidoは素材への発色を十分に保ちつつ、適度なガス抜けがある構造の昇華転写紙であるといえるでしょう。

 

 

2.転写紙Rapidoとガスバリア性の高い高級転写紙の速乾性比較

ガス抜けしない(ガスバリア性の高い)タイプで最高級の発色を得られる高級転写紙も市場にあります。この転写紙は主に大型プリンタ用であり、まず第一に転写率が高いこと、きれいで濃い発色が得られることが重視されています。

 

大型プリンタでは、小型プリンタでの排出時ピンチローラー未乾燥インク汚れ問題が起こらないため、速乾性の重視はある程度のレベルまでになっているのです。
そのため、高級転写紙は印刷後にローラーで巻き取る時に熱を掛けて乾燥する必要があったりします。

 

これに対し、転写紙Rapidoは超速乾性なので、熱を掛けなくても印刷後にインクがすぐ乾き(※シートタイプでなくロールタイプの転写紙Rapido使用時に)そのままローラーで巻き取れます。

 

 

 

3.転写紙Rapidoとガス抜け汚れのメンテナンス

ガス抜けしないタイプで最高級の発色を得られる高級転写紙は「ガス抜けしない/ガス抜けが少ない」わけですから、昇華転写時に「抜けたガスで熱プラテンや熱ドラムが汚れる」現象がおきにくい特性を持っています。これは作業時に取り扱いが楽なポイントで、ガス抜けしない転写紙のメリットです。

 

これに対し転写紙Rapidoはガス抜けするので、日々の転写作業を繰り返すことで少しずつ熱プラテンや熱ドラムに汚れが溜まります。そのため、時々掃除したりなどのメンテナンスが必要になります。ガス抜けする転写紙は、ガス抜けしない転写紙と比べると作業後の汚れにある程度注意して取り扱う必要があるのです。

 

 

 

4.ガスの逃げ場がないとゴーストやムラが発生

ガス抜けしないタイプの高級転写紙の注意点としては、両面布で間にフィルムが入ったタイプや、転写用コーティングされた金属(例えば鉄やアルミ)への転写など、転写対象が「ガスが抜けにくい」素材の時に顕著な問題が発生しやすくなることです。

 

その問題とは昇華転写時「ガス抜けしないことでガスの逃げ場所がないため」、ガスで転写紙が浮き上がるなどの現象が起こりゴースト、ムラが発生することです。

 

(また、高級転写紙とかではなくても使用している転写紙の特性によって)、また、その他の素材の場合でも、インク量その他の要因とガス抜けの具合が複合的に絡まってゴースト、ムラなどの汚れが発生することがあります。

 

それに対し、原因ははっきり掴めない。しかし試しに「ガス抜けタイプ転写紙Rapidoに変えてみたら問題が発生しなくなった」ということがあるようです。(※結果として、ガス抜けさせないと問題が起こるような状況であった場合に転写紙Rapidoに変えることで解決)

 

ある程度裏に抜けた方が好都合な場合など、ムラをなくす、トラブルを避けるという目的のために転写紙Rapidoが有用な場合があるわけです。