3次曲面昇華転写システムの解説

3次曲面昇華転写システムの解説

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1. はじめに

「3D印刷」というと、コンピュータを使った立体形状物を造形するシステムを思い浮かべる方も多いと思います。ですから、初めに言葉を定義しておきます。本稿で採り上げる「3D印刷」は立体物造形でなく、正真正銘の印刷を意味します。「3D昇華転写印刷」とは、その中の、昇華印刷画像を転写する一手法を表すものです。そして、従来のアナログ方式の立体形状物加飾方法でなく、デジタル印刷技術を用いたものなので、今、最も注目を集めている新しい手法です。以下、関連技術を含めて紹介して行きます。

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2. 携帯カバー市場と加飾方法

10年間で2倍になるような携帯電話加入契約数の伸びと平行して、様々な携帯電話アクセサリー商品が現れています。携帯カバーはそのひとつで、これにも沢山の種類があります。ソフトケース、ハードケース、皮ケースなどです。これらへの加飾方法も様々です。平面加飾なら、「着せ替えシート」、「デコシート」「携帯シール」「携帯電話シール」などの名称で、顧客が自分で貼り付けるシールが、普及しています。本稿を読まれる加飾を担当する方は、三次元形状物への直接加飾方法への知見を高めようという方々と予想し、これらの平面印刷に関する情報は割愛します。

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三次元曲面への加飾方法として、従来から知られている方法は、携帯カバーの加飾にも採用できます。その一つが、プラスチック成型用の金型内に印刷済みフィルムを送り込み、溶かした樹脂を流し込んでフィルムと樹脂を一体成型する一体成型するインモールド成形手法です。この手法は成型時に画像を印刷したフィルムを金型に挿入して貼り合わせる手法で、成型後の携帯カバーへの加飾はできません。

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もう一つの普及したした手法は、水圧転写です。これは日本で開発された技術です。 (水圧転写は、多色曲面印刷、キュービックプリンティング、カールフィットなどとも言われます) 工程としては、画像印刷された水溶性フィルムが水に浮かべられます。上から製品を押し込むと、軟化したフィルム画像が水圧で製品に回り込み貼り付きます。画像の強度を得るために、透明オーバーコートされます。水圧による回り込みなので位置合わせが困難という問題があります。

水圧転写は、成型後の携帯カバーへの後加工はできますが、前のインモールド成形手法同様、画像形成はグラビア印刷などのアナログ手法に頼っていたので、大量発注が必要でした。最近はデジタル方式のインクジェット用水圧転写フィルムも出てきたようです。パッド(タンポ)印刷という、曲面転写手法もあります。凹版からシリコンパッドでインクを拾い上げ、製品へ押圧転写する手法です。これも成型後の後加工はできますが、凹版なのでアナログ手法です。

3. 三次曲面デジタル加飾方法

 

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UV-LEDインクジェットプリンター VersaUV LEF-20

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UV硬化フラットベッドインクジェットプリンタ UJF-3042

携帯カバーの加飾では、少量ロット需要への対応が必須で、デジタル加飾方法が求められます。最適な手法はインクジェットです。事業のスタート時には、UVインクジェットプリンタがお勧めです。上平面の加飾しかできませんが、そのような需要もあり、UVプリンタ数台を導入して商売を始められるところが少なくありません。当社は、Roland社、ミマキエンジニアリング社のUVプリンタを販売しています。

ただし、より美しい発色、広い色領域、側面に回りこむ曲面追随性などを求められる場合は対応できません。上にご紹介した水圧転写加工からUVプリンタまで、全て顔料インク印刷画像なので、染料インク印刷画像の鮮やかさは得られません。曲面対応もできません。ただし、最近では、曲面対応のために伸びるUVインクで真空転写という手法も紹介され始めたので、一考の価値はあります。

さらに、展示会などで盛んに見かける三次元フィルム転写手法にも触れて置きます。三次元転写フィルムは、下から、接着層、画像層、クリア層、キャリアフィルムから構成されたものです。フィルムを加熱してやわらかくした後、減圧した力で携帯カバーに巻きつける点は、3D昇華転写システムと類似しています。この後、紫外線を照射してクリア層を硬化させ、キャリアフィルを剥がします。デジタル印刷画像を三次曲面に転写できる点は同じです。長所は、表面にクリア層が来るので硬いクリア層にすれば摩擦に強くなる点。短所は、フィルムが巻きつくので、端面からめくれて汚くなりやすいこと。また、携帯カバーに望まれる「裏側端面も画像を回り込ませたい」という需要に対応できないことです。白い部分が残ってしまいます。回り込みが不足して白い部分が残る点は、インモールド成型でも同様です。

 

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三次元フィルム転写

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3D昇華転写

 

これまでご紹介した様々な手法の問題点の多くを解決する手法が、以下にご紹介する3D昇華転写システムです。

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4. 3D昇華転写システム

3D昇華転写システムの工程では、まず、昇華インクを用いて加熱変形の容易な転写フィルムに画像を印刷します。次に冶具に差し込んだ携帯カバーを載せたトレーをシステムの真空加熱炉に挿入します。この後、真空ポンプで減圧されることで熱軟化したフィルムが製品に巻き付き、プリセットされた転写条件で画像が製品素材の中に染み込んで行きます。

製品素材の表面に色料が付着する顔料印刷とは異なり、昇華転写画像には物理的な凹凸がありません。引っかきで画像が取れるのは、製品素材が削られた時だけです。ですから、顔料印刷面に後から必要になる強度アップのための透明オーバーコートは不要です。また、染料画像なので鮮やかな仕上がりになります。

位置合わせもできます。転写フィルムに画像を印刷する過程で、一緒に位置出し用のパンチ穴を印刷しておきます。 携帯カバーを載せるトレーには、この穴に差し込む位置出し用ピンが設けられており、画像は常に所定の位置に印刷されるのです。

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5. IDT社の3D昇華転写システム

3D昇華転写システムの理論は古くから知られていました。難しかったのは、転写画像品質の安定性、システムの高い生産性、様々な製品形状・素材に対応する汎用性などです。当社が総代理販売する英国のIDT社は、長年にわたる3D転写分野での経験を基に、小型から大型まで多くの種類の3D昇華転写システムを作り上げました。

携帯カバー転写の例で言えば、携帯カバー4個を1枚のトレイに並べて転写する最もコンパクトなシステムD10.1型、6個を2枚のトレイに並べて12個を同時に転写するシステムD10.2型、9個を3枚のトレイに並べて27個を同時に転写するシステムD10.3型、さらに高い生産性を求める顧客のためには、携帯カバー9個を7枚のトレイに並べて63個を同時に転写するシステムD10.4型まで用意されています。 位置出し用のパンチ穴は、比較的小さなD10.2型システムまでは手作業で開けます。D10.3型以上のシステムでは、エア駆動のパンチング機で開けるので、より容易に位置出しが可能になります。 ※その後さらに小型の NanoPress システムが追加になりました。

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6. サンリュウの提供する昇華転写ノウハウ

昇華転写印刷は、単純なインクジェット印刷と異なり、良い印刷品質を得るには、特殊なインク、特殊な印刷素材を用い、それらに合わせた色修正プロファイルを作製した RIPを必要とし、被転写素材毎に異なる適切な熱転写条件で転写を行わなければなりません。当社は、この分野における業界のパイオニアです。約15年間に及ぶノウハウを蓄積しています。このノウハウを基にした高い技術サービス力が、当社存立の基盤になっています。

平面でなく三次曲面へ転写する3D昇華転写システムなら、なおさら複雑な技術知識が求められますが、英国 IDT社と当社を合わせて提供する業界最高サポート力はその需要を満たすものと自負しています。

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7. これからの可能性

3D昇華転写システムの普及が始まっています。普及にしたがって、転写フィルムなどの資材価格は低下を続けており、生産コストの低下が更なる需要を生み出すと予想されます。 爆発的な需要拡大を示すiPhoneやAndroid携帯、blackberryなどの、いわゆるスマートフォン用携帯カバー用3D転写はもちろん、iPadやAndroid、WindowsタブレットPCなどのタブレットコンピュータ、他のガジェットやノート型PCのカバー様々な家電商品パネル、スポーツ用具、自動車部品、カメラ部品、眼鏡部品、記念品、同人向け市場グッズなどに広がりを見せています。素材材質も樹脂に留まらず、ガラス、金属セラミックなど、ある程度の耐熱性が確保できるものであれば素材を選びません。

需要が拡大すれば、転写に関連する解決すべき課題も増えます。3D昇華転写システムは新しいものであり、システムは改良が進み、用途別に種類が増えるでしょう。また、自動化レベルの上がった高い生産性のシステム登場も必至です。当社はお客様からの問題提供を歓迎し、これらを解決して新しい技術を生み出すことを目標として掲げました。

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